ARTIST

アーティスト

画人・パフォーマー
稲口 マンゾ
INAGUCHI MANZO

PROFILE:
1978年生まれ。福岡県福岡市東区出身、在住。
幼少期より絵を描く。20代に更なる表現の広がりを求めて芝居の道へ。
その後数々の舞台を経て、活動の場を映像へと移す。
映画「夜を越える度」2021年/萱野 孝幸監督など出演多数。

自分が描いているというよりも、
何かに描かされているような
感覚があります。

マンゾさんの作品は緻密な線の描写が非常に特徴的ですが、どのようなテーマで制作されていますか?

マンゾ

最終的には、作品を前にした人が実際の生き物と対峙しているような感覚を得られることを目指しています。もっとわかりやすく言うと、生命感を感じさせることが目的です。本当の命を持ったかのような作品を描きたいというのが、私のテーマです。



マンゾさんは以前、個展のテーマに「アカシックレコード」や「原子と分子」を掲げられました。
それぞれの意味を説明していただけますか?

マンゾ

私自身、アカシックレコードについて詳しいわけではありませんが、私のイメージでは、「宇宙が生まれてから終わるまでの全ての出来事が記録されているもの」という認識です。私の絵も言葉ではなく線でそれを表現しているように感じています。次に「原子と分子」というテーマについてですが、私の描く1本1本の線が、原子や分子のような細胞的なものを表現しているというイメージがあります。全ての有機物や無機物は原子や分子の集合体です。そのため、描き上がった作品が有機的にも無機的にも見えるような認識があります。そういった意味で「原子と分子」という言葉を使っています。私は見えないものを捉えようとしてスケッチしている感覚で描いています。描いているときは、何を描こうかと難しく考えることは一切なく、単純に目の前に美しいと思う図形を描いている感じです。夢中で描いているため、自分が描いているというよりも、何かに描かされているような感覚があります。これは少しスピリチュアルな話になりますが、私は媒介として与えられたものを差し出しているだけのように感じます。自分自身も完全に理解しているわけではなく、まだ探している部分があります。私にとって線は文字や言葉のようなもので、言葉で全ての歴史を書き起こすことは難しいですが、1本の線が多くの意味を持つとするならば、線で全ての歴史を表現できるかもしれません。具体的に説明するのは難しいですが、私自身が咀嚼し、仲介者として可視化しているように感じます。

今のお話を聞いて思ったのですが、アナログレコードにはたくさんの情報が詰まっていますよね。
ただの線かもしれませんが、針を落とすと素敵な音楽が奏でられます。
マンゾさんの作品は、これに似ているような気がします。

マンゾ

私の絵も音はしないけれど、音が聴こえるように感じたり、光を放っていないけれど光を放っているように見えたりすると言われることがあります。そういったことを総称して、私は「生命感」と呼んでいるのだと思います。生きていないけれど生きているように見える、動いていないけれど動いているように見える。見る人がそれを感じるなら、それは生き物と対峙しているのと同じだと思います。また、物に精霊がいるとして、その精霊を引き出して可視化しているような感覚もあります。



また、情報が詰まっているという点では QRコードにも似ていますね。
ただ、QRコードは情報を得られますが、美しさは感じません。

しかし、マンゾさんの作品にはその意味合いに加えて美しさがあり、アーティストとしての存在意義がそこにあるのだと思います。

マンゾ

とても嬉しいです、ありがとうございます。

生命感やこの世の全てを
抽象的に描く。

先ほどマンゾさんは「描いているときは、何を描こうかと難しく考えることは一切なく、単純に目の前に美しいと思う図形を描いている」とおっしゃいました。
作品が完成して、初めて何かに気づくということもあるのではないでしょうか。

マンゾ

それはありますね。ある作品を描いた後、森の中で発見したことがあります。森の中で上を見上げたとき、木々の重なりで木漏れ日が漏れている様子を見た時、「自分が描いていたのはこれだ!」と感じました。身近なところでは森の中の木漏れ日。大きく捉えればそれは星空や宇宙、小さく捉えれば細胞の集まりのようにも思えます。そういう意味で、全てを抽象的に描いているのだと思います。結局、全てのものはそうやってできているのではないでしょうか。見えているものを顕微鏡で見ていけば、そういう絡まりでできているかもしれません。そういう意味で、原子や分子の話に繋がります。細かいものも結局は原子や分子の組み合わせですし、海もそういったものの集合体だと思います。理系ではないので詳しくはないのですが。



個展の来場者の方との会話の中、つまり第三者からの評価の中から発見することもあると思いますがいかがでしょうか。

マンゾ

私の作品をご覧になったある女性が「こんな世界になったらいいね」と言ってくれたことが印象に残っています。初めはその意味が分からなかったのですが、私の作品の線1本1本が伸びたい方向へ思うままに伸びているのに、全体を見ると調和していると伝えてくれたのです。もし線を人に例えると、それぞれの人が自分らしく生きながら、全体として調和が保たれている世界を描いているのだと。その考え方が素敵だと感じました。

これからのテーマは
「真理の美しきスケッチ」。

ところでマンゾさんは、いつ頃から絵を描き始めたのですか?

マンゾ

物心ついた頃から絵を描いていましたね。現在のスタイル、線によるアートを描き始めたのは高校生の頃です。今のスタイルに近いものを学校の教科書に落書きしたのが初めてでした。当時はもっと具体的な植物など、人が見てわかるくらいのものを描いていました。それが始まりですね。



マンゾさんは、画人だけでなく俳優としても活躍されていますね。

マンゾ

はい、さまざまなことを表現したいという強い思いがあります。俳優としての演技と画人としての活動に共通するのは媒介の役目ということです。観る人が感覚として捉えられるように、私が咀嚼して、私という媒介を通してそれを可視化しているイメージがあります。

これからの抱負や追求したいテーマを教えてください。

マンゾ

今は手や目など明らかに生き物を連想させるものを描くことで生命感を伝えようとしていますが、それが未熟だとも感じています。最終的にはそういった明確な象徴を排除しても、生命感や真理を伝えられる作品を描けるようになりたいです。例えば、氷を描かずにその冷たさを感じさせるような作品を目指しています。テーマは「真理の美しきスケッチ」です。触っても冷たくないのに見ただけで冷たさを感じるような、そんな無理難題への答えをどうにかして捉えんが為のスケッチを続けたいと思っています。以前はアカシックレコードをテーマにしていましたが、この1年で少し考え方が変わり、具体的なものを描ききるのではなく、その本質を捉えようとすることに集中する方がしっくりくるようになりました。


これまでお話を聞く中で、マンゾさんの作品には「宇宙の真理」「調和」というキーワードが内包されていると感じました。

マンゾ

そういう意味で、私の世界観は曼荼羅に近いと考えています。曼荼羅は、元来サンスクリット語の「マンダラ」の音訳で、「中心・心髄」を表す「マンダ」と「所有」を示す「ラ」が合わさったものです。曼荼羅とは、つまり「大宇宙の本質的なものを諸仏の配置によって表現し、感覚的・現象的に把握できるようにしたもの」といえます。そのように、私は森羅万象とその真理を美しく調和のとれた配置で描き続けていきたいと考えています。

インタビューを終えて

稲口マンゾさんの
テーマ・コンセプトは、
「森羅万象とその真理の
美しいスケッチ」。

 これを言葉遊びを交えた短いキャッチフレーズで表そうとした時、「真羅万象」という言葉が思い浮かびました。「真」は真理や真実を意味する言葉であり、「羅」は細部にわたって緻密に織り込まれたもの、あるいは複雑に絡み合ったものを指します。「万象」は、全ての物事、現象を指す言葉で、「マンゾウ」と読むこともでき、稲口マンゾさんとの縁を感じます。また、大元の「森羅万象」とは、宇宙に存在する全ての物事、現象を指す言葉です。「しんらばんしょう」という同じ発音を持つ「真羅万象」という言葉には、「森羅万象」の意味が内包しているという解釈ができます。すなわち「真羅万象」とは、「宇宙に存在する全ての物事、現象の真理を緻密な線で描く」という意味の言葉になります。
 このように、稲口マンゾさんの作品は、宇宙の全ての現象を深く洞察し、その本質を美しく織り成すものであり、その深遠なる世界観に触れるたびに、新たな発見と感動が得られるはずです。部屋の壁に飾り「真羅万象」とつながることで、大きな癒しと安らぎを感じることができるでしょう。そんな素敵な時間と空間を稲口マンゾさんの作品で創り出してみませんか。

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